2025年05月10日

直木 美佐 ‥‥ 独尊を貫く陶芸家

直木美佐 黒楽茶碗

楽茶碗 直木美佐三回忌遺作展

「いつかお気に入りのアジアの田舎に拠点を持ちたいな」と話していた美佐さん。

インドを含め東南アジア各地に度々、旅行されていた。

直木美佐「黒楽茶碗 径11.2×高9.2cm」
直木美佐「黒楽茶碗 径11.2×高9.2cm」

それでも右手には江ノ島が浮かぶ大海原が目前に広がる工房での作陶三昧であった。

ここ稲村ケ崎は打ち寄せる潮騒が心地よい。ご自慢の庭には毎年、殿様カエルがやってくる。池には元気で素朴なメダカが心を癒してくれる。都塵の喧騒を逃れて34歳の時、新天地を求め都内から移住して築窯した美佐さんの理想郷、かけがえのない終の棲家であった。 

小林古径、安田靫彦という日本画壇の巨匠に心酔して日本画家を志した父・直木友次良先生の影響で子供の頃から美術館を巡ったという美佐さん。幼い頃はいつも絵を描いて、絵描きになりたいと思ってイーゼルを使って、大きめな絵を描いていた。好きな画家は日本画なら速水御舟、小林古径。西洋画ではゴッホやセザンヌだった。

私とは父同士が旧知だったこともあって60数年前から知己を得た。

直木 美佐「黒楽茶碗 白桔梗」
直木 美佐「黒楽茶碗 白桔梗」

当初はデザイン関係の仕事に就かれていた美佐さんに拙宅の新築を協力していただいたこともあり、一緒に小林古径生誕の地・上越の美術館などを巡った思い出もある。

陶芸の道に入られた1967年から楽茶碗制作に意欲を燃やし、その8年後、友次良先生が船橋松ヶ丘に窯を構えられたことから、手伝いながら茶碗作りに力を注いだ。なにより楽茶碗は一碗だけを窯に入れ、急熱急冷して引き出すその緊張感に美佐さんは熱中したのだった。

直木美佐「黒楽茶碗 径11.8×高9.2cm」
直木美佐「黒楽茶碗 径11.8×高9.2cm」

稲村ケ崎に独立したのは1981年のこと。その3年後に「直木友次良・美佐父娘茶陶展」を開催はじめて直木美佐の作品を発表された。その後も開催させていただき、1996年からは個展を開催するなど懐かしく思いだされる。歳を重ねたご両親を自邸に呼んで甲斐甲斐しく介護されて辛いことも多かったであろうが、弱音を吐かず茶碗作りに専念し、それを拠り処にされていた。

あり日しの直木美佐さん
あり日しの直木美佐さん

美佐さんの作陶を覗いてみる。楽茶碗の作者が好む信楽土は扱いやすいが、美佐は焼き上がりが柔らかく、しかも急熱急冷に耐えられる唐津の土を好んで使った。信楽土は焼締の花入などを制作。

高台は茶碗造りの要だ。グイグイと土を締めつけて高台を削り、高台内もするどく抉る。釉薬は秘蔵の加茂川石「真黒石」(マグロイシ)を砕いて使用している。素焼窯は赤松で1000度まで上げてから、黒楽としては高温の1200度以上の高火度の窯に一碗のみ移して、釉の溶け具合を察してタイミングよく焼き上げる。多くの陶芸家が使うガス窯や電気窯には頼らず、赤松と松炭、コ-クスを燃料にしている。

直木美佐 黒楽茶碗(三回忌遺作展)
直木美佐 黒楽茶碗(三回忌遺作展)

合理性を嫌い、炎の庇護とともに気品のある芸術性を求めている美佐さんは得心のゆかぬ作品はすべて割ってしまう。そこで選ばれた茶碗だが、急熱焼成する過程で全滅することさえあり、平均一割程度の成功率だった。

私は三越本店での個展の推薦文を毎回頼まれたが、その9回目の個展(2015年1月)には思わず『唯一無二の表現力』と推したこともあった。

老後の面倒をみていたご両親が亡くなり、ご主人も永い闘病生活の末に亡くなり、ここ数年は一人暮らしで寂しかったに違いない。その寂寥感を振り切るために孤軍奮闘、三越での12回目の個展に向けて、新意の箆使いを加味した茶碗作りに没頭されていた。

「前から思っていたことだけど“楽の小服茶碗”を美佐さんの感性で創ってほしい」とお願いして今回はじめて8碗を発表されて、好評だった。

直木 美佐「赤楽小服茶碗 」
直木 美佐「赤楽小服茶碗 」

手強い土と格闘し、楽としては高温焼成する。その炎に立ち向かう美佐さんは謙虚ながら自らに厳しく、品格のある楽茶碗を創りあげた類まれな陶芸家であった。

この5月、はや三回忌。常世で美佐先生がより良い待遇で過ごせますように祈っています。

文:黒田草臣



魯卿あん【直木美佐 遺作展】
2025年5月12日(月) ~ 5月17日(土)
時の流れは早いもので三回忌をむかえるこの期間中に「直木美佐遺作展」を京橋「魯卿あん」にて開催させていただくことになりました。

ぜひ、魂の込められた未発表作品を観てやってください。

直木美佐 黒楽茶盌 銘「波の花」
直木美佐 黒楽茶盌 銘「波の花」

直木美佐(なおきみさ)陶歴

1947年 静岡県下田市に生まれる

1967年 「楽土会」を主宰叔父・江川拙斎と父・直木友次良に師事する

1981年 鎌倉稲村ヶ崎にて築窯

1984年 しぶや黒田陶苑「直木友次良・美佐父娘茶陶展」にてはじめて自作を発表する

1987年 日本橋三越本店にて父子展

1989年 しぶや黒田陶苑にて父子展

1890年 南海放送サンパーク美術館にて個展

1991年 松江にて個展

1994年 日本橋三越本店にて個展 1回目

1996年 日本橋三越本店にて個展   松江にて個展

  しぶや黒田陶苑にて個展

1998年 日本橋三越本店にて個展 

1999年 南海放送サンパーク美術館にて個展

2000年 日本橋三越本店にて個展 

2001年 松江にて個展

2003年 日本橋三越本店にて個展 5回展

2006年 日本橋三越本店にて個展 

2007年 しぶや黒田陶苑にて個展

2008年 三重津市松菱百貨店にて個展

2009年 日本橋三越本店にて個展

2011年 しぶや黒田陶苑にて個展

2012年 日本橋三越本店にて個展 

2013年 松江にて個展

2015年 日本橋三越本店にて個展 

2018年 日本橋三越本店にて個展 10回展

2022年 日本橋三越本店にて個展 11回展

2023年 5月没 享年 76歳

2025年 直木美佐三回忌「直木美佐遺作展」京橋魯卿あんにて開催


魯山人「大雅堂」「美食倶楽部」発祥の地

魯卿あん Rokeian』

〒104-0031 東京都中央区京橋2-9-9

TEL: 03-6228-7704

営業時間:11:00~18:00(日・祭日休)


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しぶや黒田陶苑』 

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営業時間:11:00~19:00(木曜休)