直木美佐三回忌遺作展
「いつかお気に入りのアジアの田舎に拠点を持ちたいな」と話していた美佐さん。
インドを含め東南アジア各地に度々、旅行されていた。

それでも右手には江ノ島が浮かぶ大海原が目前に広がる工房での作陶三昧であった。
ここ稲村ケ崎は打ち寄せる潮騒が心地よい。ご自慢の庭には毎年、殿様カエルがやってくる。池には元気で素朴なメダカが心を癒してくれる。都塵の喧騒を逃れて34歳の時、新天地を求め都内から移住して築窯した美佐さんの理想郷、かけがえのない終の棲家であった。
小林古径、安田靫彦という日本画壇の巨匠に心酔して日本画家を志した父・直木友次良先生の影響で子供の頃から美術館を巡ったという美佐さん。幼い頃はいつも絵を描いて、絵描きになりたいと思ってイーゼルを使って、大きめな絵を描いていた。好きな画家は日本画なら速水御舟、小林古径。西洋画ではゴッホやセザンヌだった。
私とは父同士が旧知だったこともあって60数年前から知己を得た。

径11.5 高8.1cm
当初はデザイン関係の仕事に就かれていた美佐さんに拙宅の新築を協力していただいたこともあり、一緒に小林古径生誕の地・上越の美術館などを巡った思い出もある。
陶芸の道に入られた1967年から楽茶碗制作に意欲を燃やし、その8年後、友次良先生が船橋松ヶ丘に窯を構えられたことから、手伝いながら茶碗作りに力を注いだ。なにより楽茶碗は一碗だけを窯に入れ、急熱急冷して引き出すその緊張感に美佐さんは熱中したのだった。

稲村ケ崎に独立したのは1981年のこと。その3年後から当苑で
「直木友次良・美佐父娘茶陶展」を2回ほど開催させていただき、1996年からは個展を開催するなど懐かしく思いだされる。歳を重ねたご両親を自邸に呼んで甲斐甲斐しく介護されて辛いことも多かったであろうが、弱音を吐かず茶碗作りに専念し、それを拠り処にされていた。

美佐さんの作陶を覗いてみる。土は扱いやすい信楽土だけではなく、焼き上がりが柔らかく、しかも急熱急冷に耐えられる唐津の土を好んで使った。高台は茶碗の要だ。ぐいぐい土を締めつけて高台を削り、高台内もするどく抉る。釉薬は秘蔵の加茂川石「真黒石」(マグロイシ)を砕いて使用している。素焼窯は赤松で1000度まで上げてから、黒楽としては高温の1200度以上の高火度の窯に一碗のみ移して、釉の溶け具合を察してタイミングよく焼き上げる。多くの陶芸家が使うガス窯や電気窯には頼らず、赤松と松炭、コ-クスを燃料にしている。
合理性を嫌い、炎の庇護とともに気品のある芸術性を求めている美佐さんは得心のゆかぬ作品はすべて割ってしまう。選ばれた茶碗を窯詰しても焼成過程で全滅することさえあり、平均一割程度の成功率だった。私は三越本店での個展の推薦文を毎回頼まれたが、その9回目の個展(2015年1月)には思わず『唯一無二の表現力』と推したこともあった。

ご両親が亡くなりご主人も永い闘病生活の末に亡くなり、一人暮らしで寂しかったに違いない、その寂寥感を振り切るために孤軍奮闘、三越での12回目の個展に向けて、新意の箆使いを加味した茶碗作りに没頭されていた。

手強い土と炎に立ち向かう美佐さんは謙虚ながら自らに厳しく、品格のある楽茶碗を創りあげた類まれな陶芸家であった。
この5月、はや三回忌。常世で美佐先生がより良い待遇で過ごせますように祈っています。
文:黒田草臣
京橋・魯卿あん【直木美佐 遺作展】Memorial Exhibition of NAOKI Misa
2025年5月12日(月) ~ 5月17日(土)Exhibition : May 12 to May 17, 2025
時の流れは早いもので三回忌をむかえるこの期間中に「直木美佐遺作展」を京橋「魯卿あん」にて開催させていただくことになりました。ぜひ、魂の込められた未発表作品を観てやってください。
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Memorial Exhibition of NAOKI Misa SEE MORE
開催期間:2025年5月14日(月) ~ 2025年4月26日(土)
魯山人「大雅堂」・「美食倶楽部」発祥の地 魯卿あん‥‥Rokeian
〒104-0031 東京都中央区京橋2-9-9 TEL・FAX: 03-6228-7704
営業時間:11:00~18:00 Email:rokeian-kuroda@jupiter.ocn.ne.jp
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【曜変天目 瀬戸毅己展】Exhibition of SETO Takemi

2025年5月9日(金) ~ 5月18日(日)Exhibition : May 9 to May 18, 2025
Closed on May 15 (Thu)
無二の個性豊かな陶芸家とともに歩む
〒150-0002 渋谷区渋谷1-16-14 メトロプラザ1F
TEL: 03- 3499-3225
営業時間:11:00~19:00(木曜休)
直木美佐(なおきみさ)陶歴
1947年 静岡県下田市に生まれる
1967年 叔父・江川拙斎(楽土会を主宰)、父・直木友次良に師事する
1981年 鎌倉稲村ヶ崎にて築窯
1984年 しぶや黒田陶苑「直木友次良・美佐父娘茶陶展」
1987年 日本橋三越本店にて父子展
1989年 しぶや黒田陶苑にて父子展
1890年 南海放送サンパーク美術館にて個展
1991年 松江にて個展
1994年 日本橋三越本店にて個展 1回目
1996年 日本橋三越本店にて個展 松江にて個展
しぶや黒田陶苑にて個展
1998年 日本橋三越本店にて個展
1999年 南海放送サンパーク美術館にて個展
2000年 日本橋三越本店にて個展
2001年 松江にて個展
2003年 日本橋三越本店にて個展 5回展
2006年 日本橋三越本店にて個展
2007年 しぶや黒田陶苑にて個展
2008年 三重津市松菱百貨店にて個展
2009年 日本橋三越本店にて個展
2011年 しぶや黒田陶苑にて個展
2012年 日本橋三越本店にて個展
2013年 松江にて個展
2015年 日本橋三越本店にて個展
2018年 日本橋三越本店にて個展 10回展
2022年 日本橋三越本店にて個展 11回展
2023年 5月没 享年 76歳